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奈良博手帖

当館研究員が日々の研究や活動についてさまざまな視点でご紹介します。
※読売新聞奈良版に連載している「奈良博手帖」を読売新聞社の諒解のもとに転載しております。
研究員の肩書きは執筆時となります。

2023.10.04 (Wed)

再び結ばれた縁 南山城 魅力を発信

今月3日、奈良国立博物館の特別展「聖地 南山城―奈良と京都を結ぶ祈りの至宝―」が閉幕した。京都府の最南部、奈良市に隣接する南山城地域に花開いた仏教文化を紹介したこの企画は、当館の夏期特別展としては大健闘の6万人近いご来館があり、南山城の魅力を多くの皆様に体感していただくことができた。

2023.09.20 (Wed)

仏像の歴史 明らかに CT調査 過去の修理探る

文化財調査の手法の一つにX線CT調査があります。CTは非破壊で内部の様子を知ることが可能で、奈良博の仏像調査でも構造の解明や納入品の発見など多くの成果を挙げています。さらに、虫食いの度合いや修理履歴など保存状態の把握や、解体修理前に立体的な知見が得られることから、修理を行ううえでの一つの足掛かりにもなっています。

2023.09.06 (Wed)

平安貴族の信仰伝える 「経塚」手厚く埋納

京都府南東部に位置する笠置山。その頂上には、巨大な弥勒(みろく)摩崖仏をご本尊とする笠置寺があります。奈良の人にとっては、弥勒の住む天界へつながる龍穴があるという、東大寺・お水取りの始まりの地としても知られているでしょう。今春、展覧会の事前調査のために、笠置寺に伺(うかが)いました。拝見したのは境内で出土した、お経を納める金属の筒や陶器の壺(つぼ)。平安時代の後半に盛んに築かれた「経塚」に埋納されていたものです。

2023.08.02 (Wed)

何げない1枚 縁つなぐ 「写真から伝わる記憶」

 奈良国立博物館で開催中の「聖地 南山城」展で鑑賞できる「酬恩庵庭園真景図巻」(原在明作、京都・酬恩庵蔵)の作品解説には、「あたかも写真を見るかのようにリアルに描き出している」と書いてある。昔はリアルを写すために、観察の経験や芸術的手腕などが必要だった。記憶が苦手で芸術的手腕もない私には、写真の存在がありがたい。ここに掲載した東大寺大仏殿の出口近くの土産物売り場の写真は、私と奈良とのご縁が20年近く前にさかのぼることを伝えている。

2023.07.19 (Wed)

功徳と知の集積 仏教 文献の一式

お寺を訪ねていると、一切いっさい経蔵(きょうぞう)という建物を目にすることはないだろうか。一切経とは、仏の教えを記した「経」、僧尼の守るべき規則「律(りつ)」、教えを解釈・議論した「論(ろん)」からなる書物の総称で、仏教の文献の一式である。どのくらいのボリュームかというと、中国の唐代に編纂へんさんされた『開元釈教録(かいげんしゃっきょうろく)』(730年成立)という目録では、一つの基準として1076部・5048巻とされている。

2023.07.05 (Wed)

古代の予言 思いはせ 藤原定家 書き記す

聖徳太子が、亡くなってから数百年経(た)った頃、予言者として脚光を浴びるようになったことはご存じだろうか。嘉禄3年(1227年)に書かれた貴族の日記によると、太子の墓所近くから、瑪瑙(めのう)石に刻まれた予言書が掘り出されたという。予言にいわく、86代目の天皇の世に、東の王が国を取る。閏(うるう)月が3月の年、西の王が国を従え、世の中が豊かになる。賢王の世が30年を過ぎると、空から大猿と狗(いぬ)が降り、人類を喰(く)う、云々(うんぬん)。冒頭を読んだ当時の誰もが、6年前の承久の乱を想起しただろう。