2024.04.25 (木)

書き込み 先人の業績 追記や語句の訂正

 

 私は、縁あって奈良国立博物館の仏教美術資料研究センターで司書として勤務している。これまで大学図書館で働いていたので、博物館の中にある図書館ならではもしくは当館ならではかもしれない違いを感じることがある。

 

 その一つは、書き込みを積極的には消さないという点だ。大正12年~昭和13年(1923~38年)刊行の文部省によって編集された「日本国宝全集」(日本国宝全集刊行会)全84巻は、高さ約43センチ、幅31センチの大型資料である。

 

 この本は図版とその解説から成り立つが、ほぼ全ての解説に鉛筆の書き込みがされている。線が引かれ、作者や時代が追記されたり、まれに語句が訂正されたりしている。いつの時点のものか定かでないが、学芸員が鉛筆を走らせた姿が目に浮かぶようだ。

 

 グーグルが提供する学術資料の検索サービス「グーグル・スカラー」のトップページには「巨人の肩の上に立つ」という標語が掲げられている。英国の物理学者、アイザック・ニュートン(1642~1727年)が論敵に送った手紙の一節で、偉大な先人たちの業績や先行研究などを巨人にたとえて、現在の学術研究の新たな知見や視座、学問の進展といったものもそれらの積み重ねの上に構築され、新しい知の地平線が開かれることを意味したという。

 

 その点では、この書き込みも「巨人」の一部なのかもしれない。

 

 当センターは毎週水・金曜日に事前予約制で館外の方にも所蔵資料を公開している。なお、ご利用の際には「本への書き込みはくれぐれもご遠慮願いたい」ということは申し添えておきたい。

 

(奈良国立博物館仏教美術資料研究センター司書 大内静華)

 

仏教美術資料研究センターと桜(4月10日、奈良市で)

 

  

[読売新聞(奈良県版・朝刊) 2024年4月17日掲載]

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