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奈良博手帖

当館研究員が日々の研究や活動についてさまざまな視点でご紹介します。
※読売新聞奈良版に連載している「奈良博手帖」を読売新聞社の諒解のもとに転載しております。
研究員の肩書きは執筆時となります。

2023.08.02 (Wed)

何げない1枚 縁つなぐ 「写真から伝わる記憶」

 奈良国立博物館で開催中の「聖地 南山城」展で鑑賞できる「酬恩庵庭園真景図巻」(原在明作、京都・酬恩庵蔵)の作品解説には、「あたかも写真を見るかのようにリアルに描き出している」と書いてある。昔はリアルを写すために、観察の経験や芸術的手腕などが必要だった。記憶が苦手で芸術的手腕もない私には、写真の存在がありがたい。ここに掲載した東大寺大仏殿の出口近くの土産物売り場の写真は、私と奈良とのご縁が20年近く前にさかのぼることを伝えている。

2023.07.19 (Wed)

功徳と知の集積 仏教 文献の一式

お寺を訪ねていると、一切いっさい経蔵(きょうぞう)という建物を目にすることはないだろうか。一切経とは、仏の教えを記した「経」、僧尼の守るべき規則「律(りつ)」、教えを解釈・議論した「論(ろん)」からなる書物の総称で、仏教の文献の一式である。どのくらいのボリュームかというと、中国の唐代に編纂へんさんされた『開元釈教録(かいげんしゃっきょうろく)』(730年成立)という目録では、一つの基準として1076部・5048巻とされている。

2023.07.05 (Wed)

古代の予言 思いはせ 藤原定家 書き記す

聖徳太子が、亡くなってから数百年経(た)った頃、予言者として脚光を浴びるようになったことはご存じだろうか。嘉禄3年(1227年)に書かれた貴族の日記によると、太子の墓所近くから、瑪瑙(めのう)石に刻まれた予言書が掘り出されたという。予言にいわく、86代目の天皇の世に、東の王が国を取る。閏(うるう)月が3月の年、西の王が国を従え、世の中が豊かになる。賢王の世が30年を過ぎると、空から大猿と狗(いぬ)が降り、人類を喰(く)う、云々(うんぬん)。冒頭を読んだ当時の誰もが、6年前の承久の乱を想起しただろう。

2023.06.21 (Wed)

状態見極め 丁寧に梱包 「仏像の借り出し作業」

6月に入ってから毎日のように、仏像の借り出し作業に立ち合っている。奈良国立博物館で来月から開催される展覧会の準備や、奈良博が関わっている展覧会のお手伝いのためだ。展覧会に出る仏像は、お寺などから博物館に運んで展示する。仏像が壊れないように安全に運ぶためには、梱包(こんぽう)しなければならない。

2023.05.31 (Wed)

8枚分析 金の濃度高く「日本で最初に作られた金貨」

皆さんは、日本で最初に作られた金貨をご存じですか?その金貨の名は「開基(かいき)勝寳(しょうほう)」と言い、「続日本(しょくにほん)紀(ぎ)」に記載された内容から、天平宝字4年(760年)に銀銭の大平(たいへい)元寳(げんぽう)、銅銭の萬年(まんねん)通寳(つうほう)とともに鋳造されたことが知られています。円形方孔で、銭銘は吉備真備(きびのまきび)の筆とされており、銅銭10を銀銭1に、銀銭10を金銭1に当てました。

2023.05.03 (Wed)

仏教美術に親しみを 「体験学習スペース新設」

奈良国立博物館は、仏教美術を主に展示している博物館です。けれど、「仏教美術」と聞くと、何だか難しそう……とイメージされがちです。子どもから大人まで、より幅広い層に仏教美術に親しんでほしい、そのために仏教美術について体験的に楽しく学習できるような環境を提供しよう、と少しずつ準備を進めてきました。