2024.04.10 (水)

文化財の大敵 どう防ぐ 見た目は愛らしくても害虫

 

 今の時期にコデマリやマーガレットなどの白い花をよく見ると、褐色や黄色、白色のまだら模様をした小さい昆虫が、花粉や花蜜を食べているのが目に入ります。その昆虫はヒメマルカツオブシムシといいます。成虫は非常に小さく、花粉や花蜜を一生懸命に食べている姿は愛くるしいですが、実は文化財を加害する昆虫の一種なのです。

 

 この昆虫の生態は、春から夏にかけてして、幼虫で冬を越して翌年にさなぎとなり、成虫となって野外に出てきます。幼虫の期間は300日程度、成虫の寿命は30日程度です。幼虫は布、毛皮、羽毛、皮革、絹織物、昆虫や植物標本など、さまざまなものを食べて成長するので、そのような材質の文化財も食べられます。文化財を取り扱う我々にとって、ヒメマルカツオブシムシは大敵です。

 

 この昆虫の被害を未然に防ぐためには、どのようにしたら良いでしょうか。それは昆虫の生態を知ることにより可能となります。成虫は白色に誘引されることが知られており、白い洗濯物を取り込むときは一緒に持ち込まないように注意します。また、扉の開閉を短くすることや網戸をつけるなどをして、成虫に侵入されないようにします。屋外では鳥の巣や蜂の巣をすみ家とすることがあるので、それらを取り除きます。幼虫は昆虫の死骸や糸くずなどでも育つので、餌となるものを取り除くために清掃を行います。

 

 私たちは、ヒメマルカツオブシムシをはじめ、文化財害虫が発生しない展示環境づくりに努めています。

 

(奈良国立博物館学芸部研究員 小峰幸夫)

 

ヒメマルカツオブシムシの成虫(左)と幼虫(右)

 

  

[読売新聞(奈良県版・朝刊) 2024年4月3日掲載]

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