2025.09.10 (水)

第1回正倉院展 終戦翌年に 一般公開 国民に励み

 今年は終戦から80年を数える節目の年。いまや秋の風物詩となった、1300年の時を超えてわが国の至宝が公開される正倉院展は終戦の翌年に始まった。今回は当時の奈良帝室博物館と、第1回の正倉院展について振り返ってみたい。

 

 昭和初期の奈良帝室博物館は収蔵庫を新築するほどに収蔵品が増え、春には特定のテーマを掲げた展覧会を開催していた。太平洋戦争が始まると東京帝室博物館の収蔵品の疎開を受け入れ、1943年には正倉院の秋の曝凉点検の際に宝物の一部を当館の収蔵庫に避難させている。1945年7月には閉館して終戦を迎えるが、早くも同年12月に開館。そして1946年春、これまで一時的に公開されたことはあったが、点検の際に限られた地位の人物が拝観するのみであった正倉院宝物を「一般に公開して欲しい」という声が地元関係有力者の間で高まる。

 

 こうした思いを受けて、戦争で疲弊した国民に奈良時代より受け継がれたわが国の文化の素晴らしさを感じ、文化的自信を取り戻して欲しいという願いのもと、当館に避難していた宝物のうち33件が同年10月に一般に公開された。

 

 出陳宝物件数が近年は60件前後であるからその約半数、さらに食料難で日常生活にも苦労する状況であったが、22日間の会期で来場者数は14万人を超えた。これが現在まで続く正倉院展の第1回である。

 

 戦後間もない時期のことで当時のご苦労は計り知れない。不安定な社会情勢の昨今、今年も宝物を拝見できることに感謝し、平和な世界を祈りたいと思う。

( 奈良国立博物館学芸部企画課交流推進室アソシエイトフェロー 羽良朝風 )

正倉院特別展観(第1回正倉院展)の入場券

[読売新聞(奈良県版・朝刊) 2025年9月3日掲載]

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