2025.05.02 (金)

屋根修繕 建物どう残す 仏教美術資料研究センター

 大学生の頃、唐招提寺で現地説明会のお手伝いをさせてもらったことがある。当時は国宝である金堂の平成大修理が行われていた時期で、金堂は素屋根に囲われていた。その足場から間近に屋根を見学し、その下に隠れる隅鬼をのぞき込み、彼らのチャーミングさに心打たれたことを覚えている。

 

 十数年前の記憶を久しぶりに思い出したのは、私が勤務している仏教美術資料研究センターで、中央楼の屋根修繕工事が今年1月~3月まで実施され、工事完了後の館内職員向け見学会に参加する機会を得たからだ。ヘルメットを着用して足場を上り、屋根の下に潜り込んで軒裏を見上げると、穴が開いていた部分には新たな木材が補われ、墨による古色塗りが施されていた。説明を受けて間近で見れば区別できるが、地上から見る際には気付くことは難しいだろう。解体時(写真1)では、その傷み具合に衝撃を受けた。室内への雨漏りが生じていなかった箇所だったこともあり、発見が遅れ、内部で腐食が進んでいたのではないかということだ。腐食部分は修繕され(写真2)、補修した木材には烙印らくいんが押されており、後世に修理がわかるようになっている。

 

 奈良国立博物館が開館130年を迎える中、仏教美術資料研究センターの建物は明治35年(1902年)に竣工しゅんこうし、今年で123年。屋根を支え守り続ける隅鬼にはなれなくとも、この建物を次の世代に残していくために、私にできることは何だろうか。

 

 そんな自問を抱きながら、まさに今その建物の中でこの原稿と向き合っている。 

( 奈良国立博物館資料室アソシエイトフェロー司書 大内静華)

 

(写真1)修繕前の野地板の下(垂木・隅木)
(写真2)修繕後=いずれも尾田組提供

[読売新聞(奈良県版・朝刊) 2025年4月16日掲載]

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