2025.03.27 (木)

新鮮な視点 作品に輝き 海外交流展の意義

 

 奈良国立博物館に勤務して7年。その間、さまざまな業務に携わることができたが、なかでも濃密な経験になったのが、展覧会を通じた海外との交流だ。

 

 私にとっての最初の海外出張は2019年、アメリカのクリーブランド美術館で「神道」をテーマにした展覧会が開催されたときのこと。同展にはアメリカに所在する作品はもちろん、日本からも関連の文化財が多数出品された。奈良博は学術協力という立場で、日本からの文化財の輸送や展示に関わり、私もその一員として携わることができた。2度目は、24年に奈良博で開催された特別展「空海 KŪKAI-密教のルーツとマンダラ世界」において。同展では密教の伝播でんぱルート上に位置し、密教関係の遺跡や遺物を多く伝えるインドネシアにも注目し、同国の密教の仏像や法具の展示が構想された。高野山大学の協力のもと、インドネシア国立中央博物館の特別な配慮を得て、同館の貴重なコレクションの出品がかなったのだが、その輸送や展示の主担当をつとめることができたのは幸いであった。

 

 はるばる海を越え、会場に並んだこれらの作品は、故郷での展示とは異なる、新たな輝きを放っていたように感じる。それは作り込まれた会場造作によるところもあろうが、海外の人々の新鮮な視点によって、作品の埋もれた価値が浮かび上がってきたという側面が大きいのではないか。かけがえのない文化財の長距離移動には少なからずリスクを伴うが、それにも勝る意義が海外交流展にはあることを、これらの経験を通じて実感した。

 

 

( 奈良国立博物館工芸考古室主任研究員 三本周作)

 

「空海 KŪKAI」展で展示された「金剛界曼荼羅彫像群」(インドネシア国立中央博物館蔵)

[読売新聞(奈良県版・朝刊) 2025年3月19日掲載]

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