2025.03.05 (水)
修理や所有者 歩み語る 絵画の裏面や付属品
博物館にある絵画というと、展示室のガラスケースの中に掛けられた姿がまず想像されるでしょう。
しかし、博物館の絵画のほとんどは収蔵庫の中にあります。博物館の所蔵品や、寺院・神社などからお預かりした寄託品が、それぞれに設えられた木箱におさめられて棚に並んでいます。
私が研究員になって初めて、収蔵庫に眠っている絵画を木箱から取り出してみたとき、展示室では普段見ない部分や附属品にたくさんの情報がこめられていることに驚きました。
絵画の裏面や絵画をおさめる古い木箱には、いつ、誰が、この絵を修理したか、誰が持っていたか、などの情報が墨で書かれている場合があります。まれに、筆者が誰であるか鑑定した極札や文書などの附属品が箱の中におさめられていることもあります。
例えば、奈良国立博物館蔵の重要文化財「白衣観音像」 には、画面上部に書かれた詩文が鎌倉南禅寺の約翁徳倹(1245~1320年)の筆であることを証明する前田香雪(1841~1916年)の極札が付属し、明治時代に高く評価されていたことを伝えます。
絵画の裏面や付属品に書き込まれた手書きの文字は、いま目の前にある絵画が数百年、たしかに人々の手を渡って来た、まさに文化を担った文化財であることを実感させます。
普段、絵画の裏面や付属品を紹介することは少ないですが、展示で工夫してお伝えできる機会があればと考えています。これからも博物館で、貴重な文化財との対面を楽しんでいただけますと幸いです。
( 奈良国立博物館学芸部美術室研究員 松井美樹)

[読売新聞(奈良県版・朝刊) 2025年2月26日掲載]