2025.02.12 (水)

千年越え日中結ぶ縁 仲麻呂の功績 西安の碑に

 

 昨年の夏、私は故郷である西安を訪れ、唐代の日本人留学生・阿倍仲麻呂の記念碑を訪ねた。仲麻呂は奈良時代に遣唐使として唐に渡り、中国では「朝衡ちょうこう」と名乗り、優れた学識と誠実な人柄で唐の朝廷から厚く信頼された人物だ。彼は帰国せず、「唐の風を慕う」として長安(現在の西安)で生涯を終えた。その生き様は、今も多くの人々の心を動かしている。

 

 仲麻呂の記念碑は、かつて唐の興慶宮があった場所に建てられ、1979年に完成した。白い大理石で造られた碑には正面に「阿倍仲麻呂紀念碑」、背面には彼の功績が記されている。碑身の頂上には梅の花と桜の花の浮き彫りが施され、基部周囲の欄板には遣唐使船の彫刻が施されている。また、碑身側面には彼と親交のあった李白が詠んだ詩も刻まれている。その静かなたたずまいは、仲麻呂の足跡と日中友好の歴史を、訪れる人々にそっと語りかけてくれる。

 

 私は1998年、26歳の時に日本へ留学し、それから26年、奈良に暮らしてきた。今は奈良博で展示の翻訳や中国との文化交流に携わっている。奈良と西安はともに1000年以上の歴史を持つ古都であり、深い文化的な結びつきがある。奈良には唐僧鑑真が開いた唐招提寺があり、正倉院には唐代の品々を含む貴重な宝物が保存されている。これらの文化遺産に触れるたび、私は故郷と奈良が時を超えて繋がっているのを実感する。

 

 1000年前、仲麻呂が私の故郷に渡り、今は私が彼の故郷である奈良で暮らしている。この不思議な縁を思うと、私は西安人であると同時に、奈良人でもあるように感じる。仲麻呂がその生涯を日中友好の架け橋として歩んだように、私もその志を少しでも受け継ぎ、文化交流を通じて両国の理解と絆を深める一助になりたい。

 

( 奈良国立博物館研究員 張小娟)

 

阿倍仲麻呂の記念碑(2024年9月、張研究員撮影)

[読売新聞(奈良県版・朝刊) 2025年2月5日掲載]

一覧に戻る