2024.11.27 (水)
音声ガイド 制作に力 鑑賞の相棒 たまにはいかが
展覧会で用意される音声ガイド。奈良国立博物館では、その制作を筆者が所属する教育室という部署が担当している。
音声ガイドには専門の業者があり、博物館がタッグを組んで音声ガイドを作り上げる。まずは音声ガイドで紹介する作品(特別展だと20件前後)と、その展覧会にフィットするナレーターを選ぶ。読み上げる原稿は業者が草案を作成し、博物館側はその内容をチェックする。各作品の図録原稿を書いた研究員一人ひとりに原稿を見てもらうが、耳で聴いてわかりやすい言葉遣いになっているか、自然な話の流れか、といった調整は教育室が担う。
幾度かの修正を経た後、ナレーターに文章を読み上げてもらう収録日を迎える。何度も目を通した原稿でも、音声を聴いてはじめてわかりにくい部分に気づくことがあり、場合によってはその場で文章を組み立て直す。業者は収録された音声を編集し、音声ガイドは一応の完成をみる。ただし、内覧会の前日、実際の展示とガイドとの齟齬がないか必ず室内を回りながら聴き、そこで修正が入ることも。業者には申し訳ないと思いつつ、なるべく妥協しないように心がけている。
奈良博では、こうした過程を経て来館者に音声ガイドをお届けしている。他の博物館の事情はあまり知らないが、奈良博は制作に力を入れている、と筆者はひそかに自負している。図録や展示室内のパネルでは紹介していない裏話を用意することも多い。とある展覧会では、ガイドのためだけに館蔵品の金剛鈴を優しく鳴らし、その妙音を楽しんでもらった。
展覧会の音声ガイドは普段借りないという方も、たまにはいかがだろう。思いがけず、鑑賞のよき相棒となってくれるかもしれない。
(奈良国立博物館教育室研究員 内藤航)
[読売新聞(奈良県版・朝刊) 2024年11月20日掲載]