2024.10.09 (水)

伎楽復元へ 日韓を比較「楽舞ルーツ 最古の渡来芸」

 

 日本の伝統演劇史を調べると、最古の渡来芸であり、日本の芸能に大きな影響を与えたとされるがくに関する諸情報を得ることができる。

 

 「日本書紀」によれば、612年、百済人の味摩之みましが日本列島に渡ってきて、「くれ(中国の江南地方)で学び伎楽舞を習得した」と言ったという。そこで朝廷は、味摩之を現在の奈良県の桜井に住まわせて、少年たちを集め、その舞を習わせた。伎楽が日本列島に伝来し、実際に演じられたとされる最初の記事である。一説では、伎楽は仏教法要などで演じられたため、味摩之は芸能に優れた僧侶であった可能性が高いとされる。

 

 この伎楽の内容は、今は衰退して具体的には不明だが、断片的には鎌倉時代の楽人・こまのちかざねが著した「教訓抄」に紹介されている。そのうち、呉女ごじょをもてあそんだ崑崙こんろんが力士に懲らしめられるという劇の内容は、役名は異なるが、現在も韓国の各地で演じられる伝統仮面踊り「鳳山ぼんさんタルチュム」と類似する。

 

 そのため、日韓の演劇史学界では、日本の史料と、正倉院や東大寺、法隆寺に伝来した伎楽面と、現在に伝わった仮面劇とを、精密に比較して伎楽を復元しようとしている。

 

 奈良国立博物館のなら仏像館では、10月1日から12月22日まで、特別陳列「東大寺伝来の伎楽面―春日人万呂と基永師―」を開催しており、9件の伎楽面を展示している。古代中国や朝鮮半島を経て日本列島に伝わり、日本の楽舞のルーツとなった伎楽の魅力をじっくりと鑑賞できる機会となるはずだ。

 

(奈良国立博物館アソシエイトフェロー 安賢善)

 

韓国の伝統仮面劇に用いられるお面
「ハフェタル」の壁飾り

 

  

[読売新聞(奈良県版・朝刊) 2024年10月2日掲載]

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