2024.09.12 (木)

雲版 時報の音響かせ 琉球王国時代の現存唯一

 

 奈良国立博物館には、1458年に製作された琉球国おおざとぐすくの雲版が寄託されています。雲版とは、禅宗寺院で時報などを知らせるために打ち鳴らす、青銅または鉄で作った雲形の板のことです。本品の寸法は幅46.6cm、高さ49.6cm、厚さ2.0cm、つきは損傷していますが、重さは約10kgあります。

 

 銘は、版面の中央に「琉球国王大世主庚寅慶生□□」、右に「大里城」、左に「天順二年八月八日」と陰刻されており、1458年に琉球国王であるしょうたいきゅう王の寺院整備期に製作され、沖縄県南城市の大里城で用いられたことがわかる、琉球王国時代の現存唯一のものです。徳島県の浄智寺から1911年(明治44年)に寄託されたものですが、これまでほとんど展示されたことがありませんでした。

 

 このたび所蔵者から許可をいただき、材質を明らかにするための蛍光X線分析調査を行ったところ、銅約70%、錫15%弱、鉛15%強の青銅であることが明らかとなりました。組成から、よく響く音がしたと思われます。また、文字の部分からは水銀が検出されたことから、文字を朱で赤く強調していたことが初めて明らかになりました。この雲版と同じ1458年に、有名な旧首里城正殿鐘(万国津梁ばんこくしんりょうかね)が鋳造されており、組成が似ていることもわかっています。この鐘の音は15km離れた場所でも聞こえたそうです。

 

 この雲版は、今年の12月前半から1月中旬まで開催する名品展「珠玉の仏教美術」で展示される予定です。是非ご覧ください。

 

(奈良国立博物館学芸部保存修理指導室長 鳥越俊行)

 

浄智寺が所蔵し、奈良国立博物館に寄託されている雲版

 

  

[読売新聞(奈良県版・朝刊) 2024年9月4日掲載]

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