2024.08.28 (水)
住友春翠 愛でた蒐集品 中国古代青銅器 図録にも
現在、奈良国立博物館で開催中の特別陳列「泉屋博古館の名宝-住友春翠の愛でた祈りの造形-」では、泉屋博古館(京都・東京)から数々の作品をお借りして展示をしています。同館は、銅山開発や精銅で知られる住友家が築いたコレクションの保管、研究、公開を行う美術館で、中でも住友家第15代住友吉左衞門友純(雅号:春翠、1864~1926年)の蒐集品がその中心です。
この展覧会では、春翠の種々のコレクションのうち、生涯、情熱を注いで蒐集した中国古代青銅器と、晩年に心を寄せた仏教美術の2分野を取り上げました。展覧会を準備する過程で、春翠の青銅器蒐集に対する姿勢を改めて知るところとなり、感銘を受けました。
春翠が初期に購入した青銅器は、嗜みのあった煎茶道の床飾りに相応しい、簡素なデザインのものでした。私も少しばかり茶道を楽しんでおり、道具を揃えたくなったりもしますので、とても共感ができます。
ところが、程なくして、春翠は学術的な観点から蒐集を進めるようになります。中国の文献で青銅器を体系的に学んだ上で、様々な器種をまんべんなく集めるのです。さらに、自身が蒐集した青銅器の写真や解説を掲載した図録の刊行までも手がけます。これにより、春翠のコレクションの意義が世界的に知られることになります。単なる美術品の愛好家に落ち着くことなく、社会的に果たすべき役割を見据えた蒐集活動に、頭が下がるばかりです。博物館人である我々も、その姿勢に学ぶところが多くあります。
(奈良国立博物館教育室長 中川あや)
[読売新聞(奈良県版・朝刊) 2024年8月21日掲載]