2024.06.19 (水)

祈りを集め 袈裟復活「令和の糞掃衣プロジェクト」

 

 東京国立博物館所蔵の法隆寺献納宝物に「ふんぞう」というがある。伝承によるとこれは聖徳太子の持物であったという。昨年より神戸市の須磨寺ではこの袈裟を現代に復活させようという「令和の糞掃衣プロジェクト」が行われ、筆者はその監修をお手伝いさせて頂いた。

 

 「糞掃」とは奇妙な名前だが、これはお釈迦さまが定められた袈裟の形式で、ボロキレを洗い清めて縫い合わせるというものだ。流通価値のない衣は追い剥ぎなどの難を防ぎ、自分を飾ろうとする心を捨てて大慈悲の道を歩むことを象徴している。

 

 このプロジェクトは、もともと山口県平生町の般若寺住職であった福嶋弘昭師が始められたものだが、昨年の1月に突然のご病気でご遷化されてしまった。そこで法弟である須磨寺の小池陽人副住職が志を引継ぐこととなったのである。

 

 大阪を拠点に樹木布の制作・普及を行っている「えんの糸」の加藤貴章氏によって、高野山奥の院の倒木や須磨寺の敦盛桜で作られた布が用意され、須磨寺のだんしんや参詣のみなさまが「いっしんいちぶつ」を標語に月に1回のペースで縫製された。

 

 当初は3年計画くらいかと考えていたが熱心なご奉仕の力はすさまじく、半年にして袈裟は縫い上がり、5月25日に須磨寺でお披露目された。小池陽人副住職が糞掃衣をまとわれた姿は素晴らしく輝いて見えた。みんなの祈りによって仕立てられた袈裟が、これからの世界を明るくし、よりよい時代が開けていくことを祈っている。

 

(奈良国立博物館主任研究員 三田覚之)

 

糞掃衣をまとう須磨寺の小池陽人副住職

 

  

[読売新聞(奈良県版・朝刊) 2024年6月12日掲載]

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