2024.06.05 (水)
感覚に訴える展示 「空海 KŪKAI ―密教のルーツとマンダラ世界」
現在、奈良国立博物館では空海(774~835年)の生誕1250年を記念する特別展を開催している。空海は日本史の教科書に必ず登場する、誰もが知っている偉人であり、今までも日本全国で空海を取り上げた展覧会が数多く開催されてきた。
しかし、そもそも空海が生涯をかけて伝え、日本の文化に大きな影響を及ぼした密教とは何だったのか。この点について、展覧会などで説明される機会はあまりなかったのではないか。そこで今回は、インドで生まれた密教が陸と海のシルクロードを経由して唐、そして日本に至った軌跡を辿り、また空海の足跡を追うことで、空海が伝えた密教の世界をより深く理解してもらえる展覧会を目指した。
素晴らしい曼荼羅や仏像は、美術作品として1点ずつ鑑賞することも重要である。しかし、今回の最初の展示室は、両界曼荼羅、仏像による立体マンダラ、密教の尊像などが居並ぶ空間に見る者が入ってしまったような、空海が強調した密教を「眼で見て感覚的にわかる」空間を実現した。空海が初めて本格的な密教を持ち帰ってきた時、当時の人々も、曼荼羅に整然とあらわされたほとけの世界、そして見たことのない仏の姿に驚き、心を打たれたはずである。
曼荼羅に描かれた世界は何を表しているのか、鑑賞や理解の糸口となる解説やパネルも、工夫して用意している。ぜひ会場で理解を深めていただき、この展示室でしか体験できない、密教のほとけの世界に入り込んだような感覚を味わっていただきたい。
(奈良国立博物館列品室長 斎木涼子)
[読売新聞(奈良県版・朝刊) 2024年5月29日掲載]