2023.11.22 (水)

西安の地で縁結ぶ 空海の偉大さ 再認識

 

 先日、中国陝西省の西安市を訪れた。弘法大師空海の生誕1250年を記念し、来年春に当館で開催する特別展「空海 KŪKAI―密教のルーツとマンダラ世界」の準備のためだ。西安市は古都長安を前身とする巨大都市で、唐の時代に空海が渡った地である。

 

 西安を訪れた目的のひとつ、展覧会で出品を予定している西安碑林博物館所蔵の文殊菩薩もんじゅぼさつ坐像ざぞうの調査に赴いた。同像は長安にかつてあった安国寺の境内地から出土した密教像のうちの一体で、唐代における密教の隆盛を物語るものとして名高いが、実際に見て完成度の高さに驚かされた。この像をはじめ安国寺跡出土の諸像は空海が長安に来た頃にはすでに造られていたと考えられ、その眼に映ったことを想像したくなる。

 

 もう一つの目的は市内の東南に位置する青龍寺。空海が同寺の恵果に師事し、密教の教えを受けたことはよく知られている。唐代の長安には青龍寺や密教像が出土した安国寺のほか、今も法灯を守る大興善寺など密教寺院が複数あったが、青龍寺は北宋の頃に廃絶したらしく、いまは発掘調査の成果をもとに現代に復元された堂宇が人々を迎えている。 

 

 青龍寺の敷地内には空海の記念碑があった。空海にゆかりの深い日本の四国4県が1982年に建立したものである。碑に刻まれたせきには、空海は31歳で長安に渡り、2年あまりで密教の奥義を極めたことが記される。たまたま同じ年齢の筆者は空海の偉大さを再認識したとともに、甚だおこがましいが、大師とのご縁を結べた思いがした。

 

(奈良国立博物館研究員 内藤 航)

 

青龍寺にある空海の記念碑(西安市で)

 

  

[読売新聞(奈良県版・朝刊) 2023年11月15日掲載]

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