2023.06.21 (水)

状態見極め 丁寧に梱包 「仏像の借り出し作業」

 

 

 6月に入ってから毎日のように、仏像の借り出し作業に立ち合っている。奈良国立博物館で来月から開催される展覧会の準備や、奈良博が関わっている展覧会のお手伝いのためだ。展覧会に出る仏像は、お寺などから博物館に運んで展示する。仏像が壊れないように安全に運ぶためには、梱包こんぽうしなければならない。

  

 梱包するときは、顔や手など、ぶつかったときに壊れやすい箇所をクッションの紙で包んでから、L型と呼ばれる木枠のようなものに固定して、輸送中に倒れたり、ぶつかったりして壊れないようにする。

 

 梱包の際、仏像のどの部分をどのように固定するかは千差万別だ。手先など先端部の構造的に弱いところで縛ったら、像の手が折れてしまうので、胴体など丈夫な場所で縛らなければ安全に固定できない。しかし、安全に縛れる場所は、像の形によって色々だ。仏像の保存状態も様々で、一番縛りやすい箇所が壊れそうな状態になっていたら、その場所を避けるように像を梱包する必要がある。

 

 こうした梱包を行うのは、美術品輸送の専門業者だが、輸送の責任を負うのは博物館の学芸員(研究員)である。学芸員は、仏像一体一体について、安全な箇所や壊れそうな箇所がどこかを見極めながら、梱包作業を専門業者と一緒に行っていくのである。

 

  展覧会に展示されている仏像は一体一体、こうした苦労を経て会場に展示されている。だから、できるだけ多くの人に会場でご覧いただくことを願う。

 

(奈良国立博物館美術室長 岩井共二)

 

輸送のために梱包される仏像

 

  

[読売新聞(奈良県版・朝刊) 2023年6月14日掲載]

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