2023.04.19 (水)

精緻な金工 ファン必見 「名だたる仏舎利 一堂に」

 

 

 名だたる仏舎利の数々を一堂に公開する。そう聞いて色めき立つのは、よほどの仏教美術ファン、またはお坊さんをはじめ信仰心のあつい方々に違いない。22日~6月4日に開催する名品展「珠玉の仏教美術」では奈良博の所蔵品やお預かり品から仏舎利信仰の流れを示しつつ、精緻せいちな工芸技術を駆使した舎利荘厳の代表作を紹介する。仏舎利ファン(?)ならば必見の展示と言えるだろう。

 

 仏舎利とは本来釈尊の遺骨を指すが、やがて水晶や瑪瑙めのうなどの小さな粒も釈尊の分身たる力を宿すことで仏舎利とされた。不可思議な力を持った仏舎利は、時に自ら増減するとされ、忽然こつぜんと空間から出現するという。

 

 そうして得られた仏舎利は舎利容器に収められ、儀礼の本尊として大切にまつられることとなる。このため、仏舎利を安置する容器は、古代より金工を中心として、工芸技術の見せ場とも言える地位を保ってきた。

  

 なかでも仏舎利荘厳における思想と美意識、技術が最高潮に達したのは、鎌倉時代のことである。その中心にいたのが興正こうしょう菩薩ぼさつあがめられた叡尊えいそんであり、奈良・西大寺や海龍王寺に所蔵される数々の舎利容器は叡尊の信仰と思想に基づいて制作された傑作中の傑作と名高い。

 

 これらを含め舎利荘厳の諸相を紹介する今回の展示は、平常陳列として規模は小さめだが、非常に濃い内容を持っている。この春、様々な願いをかなえるというきらめく仏舎利との出会いに、是非ともご期待を頂きたい。

 

(奈良国立博物館主任研究員 三田覚之)

 

火焔宝珠形舎利容器
(鎌倉時代、奈良・西大寺蔵)

 

  

[読売新聞(奈良県版・朝刊) 2023年4月12日掲載]

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