2023.03.15 (水)

疫病防除の儀礼 国越え 「神祀り」奈良期に盛行

 

 去る2月、韓国・中国・日本の3か国の古代史研究者がオンラインで集まる東アジア古代史研究会に参加させていただいた。最後に話題となったのは、どうして奈良時代に疫病防除のための神(まつ)りが盛行したかであった。境界領域の神であった気多・気比神、鹿嶋神、八幡神は、平安時代末期になると、奈良・東大寺(戒壇院・勧進所)に奉られたが、これは現在も継承され、修二会(しゅにえ)の声明で勧請(かんじょう)が行われている。

  

 疫病を(はら)うという思想は韓国に存在する。例えば、新羅・憲康王5年(879年)、龍王の息子である「処容」という人物が、疫神を祓って門神となったという説話がある。処容が自ら歌い、踊ったとされる「処容歌」と「処容舞」は、高麗から朝鮮時代に宮中儀礼として定着、継承され、そのうち処容舞は2009年にユネスコ無形文化遺産に登録された。

 

 古代日本の神祀りと古代韓国の処容説話には共通する部分がある。8世紀以降の東アジア地域では、チベット地域から始まった「天然痘」が中国と朝鮮半島を経て日本列島まで広く流行していた。未知の病に対する恐怖は、やがて疫神という存在を生み出し、これを防除しようとする考え方が国を超えて生じたことは不自然ではない。

 

 世界的なパンデミックをもたらしたコロナ禍がまだ続いているが、以前のように国をまたいで人々が行き来する日々が戻りつつある。奈良国立博物館では19日まで特別陳列「お水取り」を開催している。東アジア地域に広がりを持つ儀礼という視点で、ぜひ観覧してみてほしい。

 

(奈良国立博物館アソシエイトフェロー 安賢善)

 

疫病退散の御利益で知られる
「元三大師」のお札

 

[読売新聞(奈良県版・朝刊) 2023年3月8日掲載]

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