2022.09.22 (木)
納入品 人々の心も繫ぐ 仏像のCT調査
奈良博で研究員として働ける日が来るとは、夢にも思っていなかった。着任してから、約190件のX線CT調査と画像作成を担当した。奈良博ではCT調査で仏像の内部に納入品が発見されることも少なくない。基本的に、解体修理でもなければ納入品は取り出されない。そこで、CTデータを用いて、どのような品が納められているのか、素材や数、寸法を解析していく。
巻物、五輪塔、水晶、仏舎利……。データ上ではあるものの、様々な納入品と向き合う時間は、時空を超えて、想いと祈りを目の当りにする特別な時間だ。時に「何とかして納めるぞ」と、納入品を折り曲げたり重ねたりと、試行錯誤しながらも、一生懸命に納められている様子も愛おしい。
そんな大切な納入品の数を間違えたくはない。舎利の一粒に至るまで私も必死で数える。「1、2……17。さっき数えたときは18だったのに。一つ足りない。」その瞬間、私は“皿屋敷のお菊さん”と化す。可能な限りの確かな情報と、仏像の尊厳や込められた想いを傷つけないように留意して納入品の画像を作成し、提示することは、仏像そのものだけでなく、過去・現在・未来の人々の心も繫げると信じている。
来春に5年の任期を終え、私は奈良博を卒業する。父と仏足石を見て仏教美術に触れた9歳、正倉院展を見て学芸員を志した18歳、母と「いつかこんなところで仕事したいね」と夢を見た21歳。奈良博は私の人生の節々にあった。その奈良博で私が担当したCT調査が文化財保存と人々の心を繫ぐ一助になれば幸いだ。この5年間は本当にキラキラした夢のような日々だった。
(奈良国立博物館学芸部研究員 安藤真理子)
[読売新聞(奈良県版・朝刊) 2022年9月14日掲載]