2022.07.22 (金)

文化財の被害防ぐ 館内に侵入する害虫監視

 博物館には毎日、多くの方が来館されます。それでも館内は、常にきれいで清潔に保たれています。なぜきれいで清潔に保つのでしょうか。いくつか理由があります。

 

 一つは、気持ちよく鑑賞していただくためです。そして、別の理由としては、害虫の侵入や発生を防ぐためです。害虫はゴミやちりほこりなどを餌やすみかとして利用するので、ゴミやちりほこりが館内にあると害虫が屋外から侵入したり館内で発生したりします。

 

 木彫仏像や書籍、織物など、文化財の材質は様々なものがあり、それを加害する害虫も様々です。例えば木材や竹材を加害する害虫には、ヤマトシロアリやイエシロアリなどのシロアリ類、ケブカシバンムシやヒラタキクイムシなどのコウチュウ類などがいます。

 

 紙を加害する害虫には、ヤマトシミやセイヨウシミなどのシミ類、フルホンシバンムシやザウテルシバンムシなどのコウチュウ類などがいます。布製品や昆虫・植物標本などを加害する害虫には、ヒメカツオブシムシやヒメマルカツオブシムシなどのカツオブシムシ類などがいます。

 

 害虫の侵入を定期的に監視するのはとても大変です。そこで粘着トラップを館内に設置して、捕獲された生物を分析することにより侵入を監視しています。害虫はとても小さくて目立ちませんが、文化財への被害はとても甚大なため、館内に侵入する害虫を監視するのはとても重要なことです。

  

  

(奈良国立博物館学芸部研究員 小峰幸夫)

 

館内に設置している粘着トラップ

[読売新聞(奈良県版・朝刊) 2022年7月14日掲載]

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