2022.02.21 (月)

作品の正体 推理鮮やか 学芸員は「名探偵」

 推理小説が好きで、昔からよく読んでいる。ポアロやホームズが広い知識と鋭い洞察力で難事件を解決していくさまは爽快で、続きが気になってつい夜更かししてしまう。

 

 私は奈良博で翻訳や海外の博物館との連絡を担当している。日々、学芸員の仕事を間近に目にしながら働いていると、学芸員は名探偵みたいだとよく思う。

 

 何十年も前にわずかに見ただけの作品の細部まで覚えていて、目の前にある作品との関連性を導き出したり、作品に残された小さな擦れ跡からその本来の使われ方を明らかにしたりすることもある。また、CTスキャンなど科学調査を基に研究を進める様子は、物語の中の科学捜査官さながらだ。

 

 そんな「奈良博探偵事務所」にイギリスから依頼が舞い込んだ。依頼主は王室の宝物を管理するロイヤルコレクショントラスト。イギリスの王子たちが1881年(明治14年)に訪日した際に持ち帰ったらしい古写真について詳細を知りたいのだという。

  

 この写真を見た奈良博の「探偵」は、写真に写っていた仏像のうちの1体が、前に見たことがあった来歴不明の仏像と同一のものであることに気づき、複数の資料を手がかりにして、その仏像がかつてどこに(まつられていたかを突き止めてしまった。ホームズの見事な推理を目の当たりにする助手のワトソンの気分だ。

 

 今、私は王子たちの日本旅行記を翻訳して発表する準備をしている。この旅行記がまだ見ぬ名探偵たちの目に留まり、いつの日か、その鮮やかな推理のヒントになれたらいいなと思っている。

 

(奈良国立博物館企画室専門職 堀内しきぶ)

 

イギリスのウィンザー城で、王子たちが持ち帰った写真を調査する
奈良博の研究員とロイヤルコレクショントラストの担当者

(読売新聞 2022年2月9日掲載)

一覧に戻る