2022.02.14 (月)

用途不詳 奈良時代の道具 現代からヒント?

 「第73回正倉院展」は無事に開幕日を迎えることができた。昨今の情勢を(かんが)みて事前予約制が導入されたが、それでも多くの方に足を運んでいただくことができた。今回は正倉院展に関するエピソードをお話ししたい。

 

 今回出陳された55件の宝物の1つに「鏝形(こてがたの)銅器(どうき)」(南倉)がある。円形に整形された厚さ1ミリほどの銅板にL字形の柄が取り付けられた小型の銅製品。名称は「コテの形をした銅製の器物」という意味である。

 

 外見の特徴から、道具であることは間違いないのだが、何に使われたものかよく分かっていない。これまでの研究では、中国・唐代に作られた()香炉(ごうろ)の中に鏝形銅器と似た器物がセットで出土する例があることから、柄香炉に付属した「灰ならし」や「炉の蓋」と推定されてきた。

 

 近年、宮内庁正倉院事務所により光学調査が行われたが、正倉院に伝来した柄香炉とは成分や構造上の特徴に違いがあった。現在はセットとなる柄香炉の特定には至っていないが、もしかしたら、かつてセットとなる柄香炉が存在したのかもしれない。

  

 そんなある日、常日頃から親しくしている他館の学芸員の方々が来館され、展示室を案内したところ、鏝形銅器を前に、「これと似た道具、うちで使っているよ」という驚くべき指摘をいただいた。

 

 その方は寺院にお勤めの方で、「香炉の灰をならす道具」と教えてくれた。筆者の知る灰ならしとは形が異なっていたのだが、調べていくと現代の灰ならしには鏝形銅器と形がよく似るものがあることを知った。果たして、本当に奈良時代の灰ならしなのだろうか。

 

(奈良国立博物館工芸考古室アソシエイトフェロー 伊藤旭人)

 

「鏝形銅器」のイメージ図

(読売新聞 2022年1月25日掲載)

一覧に戻る