2021.12.23 (木)

時代のトレンドも映す 「仏教工芸」に想うこと

 奈良博の所蔵品は仏教に関わる作品が主だ。仏像などの「彫刻」、仏画などの「絵画」、経典などの「書跡」、出土瓦などの「考古」といった区分のもと管理されている。私が担当しているのは「工芸」というジャンルの作品で、やはり仏教に関連した「仏教工芸」が多い。

 

 仏教工芸とはどのような品を指すのか。仏前に供える(しょく)(だい)()(びょう)、法要で僧侶が手にする香炉や数珠、お堂を飾る装飾品など、様々な種類がある。寺院で使われる多くの道具が仏教工芸といってよい。

 

 それらはほとんどの場合、仏像や仏画とは違って直接の崇拝の対象にはならない。どちらかというと脇役的な存在であることが多い。では、これらの魅力はどこにあるのか。

 

 まずは、作品の形や装飾だ。形は道具としての実用性に由来する「用の美」を備え、仏をめぐる品にふさわしく、美しい装飾が凝らされる。次は、作品が本来どのように使われたかを知ること。用途がわかれば、形や装飾の意味もみえてきて、ぐっと楽しみが増す。

 

 そして、「寺院の道具」という枠を越えて作品を見直してみること。例えば、経典を収める経箱(きょうばこ)は、平安時代には貴族の間で好まれた金銀の蒔絵(まきえ)で装飾されることも多かった。室町時代には、仏前の燭台・華瓶・香炉という仏具のセットが床の間を飾る座敷飾りにもなった。仏教工芸といいながら、「聖」の領域にとどまらず、「俗」の領域とも深く関わりながら存在してきた。それぞれの時代のトレンド全体の中で仏教工芸を見てみると、また別の側面が見えてくるかもしれない。

 

(奈良国立博物館工芸考古室研究員 三本周作)

 

蒔絵で飾られた経箱(国宝 蓮唐草蒔絵経箱 平安時代 奈良国立博物館蔵)

(読売新聞 2021年12月14日掲載)

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