2026.11.05 (木)

「狩猟文」伝播地域の趣 騎乗動物や人物の服装に差

 まもなく「第78回正倉院展」が開幕します。約1300年の時を超えた天平文化の精華をお楽しみいただけることと思いますが、ペルシア由来の形態や素材を用いた漆しっ胡こ瓶へいや白はく瑠璃るりの瓶へいは、とくに目を引く宝物といえるでしょう。

 

 さて、シルクロードを経た文化・芸術の東漸のなかで、作品そのものだけでなく、画題や文様の流行も中国、そして日本へ伝わりました。来夏開催の特別展「奇跡の壁画とシルクロードの至宝」に出展される、ウズベキスタンのヴァラクシャ遺跡出土「騎き象ぞう狩しゅ猟りょう図ず壁画」(8世紀)は、そうした画題・文様の広がりを示す例です。

 

 動物に乗り猛獣と戦う人物が勇壮に描かれた「狩猟文」は、古くメソポタミアやアッシリアに起源を持ち、王の威光を示す画題としてサーサーン朝ペルシアで洗練されました。その後、シルクロード沿線の国々で流行し、正倉院展で出展される「狩しゅ猟りょう文もん錦にしき等とう雑ざっ貼ちょう」や、法隆寺伝来の国宝「四騎しき獅子しし狩かり文もん錦きん」などから、日本でも受容されたことがわかります。

 

 さらに、人物の衣服や象の鞍敷くらしきにあしらわれた、円を丸く連ねる「連珠れんじゅ円文」も、同じくサーサーン朝ペルシアで完成され、日本へと伝来したデザインです。

 

 こうした東西での共通点がある一方で、騎乗する動物の違い(象や馬)や、人物の服装、手に取る武具などには地域ごとに差が見られます。このことは伝でん播ぱした画題・文様が各地でそのまま受容されたのではなく、各地の文化や環境に合わせて独自に解釈され、アレンジされたことを示しています。

 

 作品の背景にある、シルクロードを通じた文化伝播のダイナミズムに思いをはせることで、東西交流の証拠としての魅力がさらに増すように思われるのです。

(奈良国立博物館企画室主任研究員 市川創)

[読売新聞(奈良県版・朝刊) 2026年10月21日掲載]

 

 

騎象狩猟図壁画(ウズベキスタン国立美術館蔵)

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