2021.09.07 (火)

文化財 後世へ橋渡し 保存修理指導室の役割

 博物館では様々な業務が行われている。今回は「保存修理指導室 博物館科学」を紹介したい。私が所属する保存修理指導室は、展示・保管環境を整えることで文化財の保存を図り、修理を指導して後世に継承する役割を担っている。私たちが文化や歴史を語ることができるのは文化財があるからこそ。しかし文化財は、経年劣化や天災、人災によって常に失われる可能性がある。モノは勝手には伝わってこない。今ある文化財は「次代に伝えなければ」という志のもと、目通し・風通しをして劣化予防や保存、時には修理をして受け継がれてきた。

 

 ただ、人間の目では内部の劣化までは確認できない。そこで科学調査の出番だ。私の仕事の一つにX線CT調査があるが、「仏様の中をのぞくとは罰当たり」とお叱りを受けることもある。しかし、興味本位で内部を拝見するのではない。劣化状況や構造の確認、いわば“文化財の健康診断”が目的で拝診している。人が健康診断を受けて安心して過ごすように、文化財も「劣化箇所はないか」「修理は必要か」「お(まつ)りや展示、輸送には耐えられるのか」などの診断をするのだ。材質や技法、文化財そのものの真実も解き明かすことで、安心安全な状態で皆さんの前にお出ましいただき、次代に受け渡す指針を示す。それが博物館科学担当である私の使命だ。

 

 文化財の保存と継承に最も大切で必要不可欠なのは、文化財に心を寄せる人の存在だ。文化財の所有者、修理技術者、博物館に来てくださる方、そして、この奈良博手帖を読んでくださっているあなたもまた、文化財を次代に受け渡す役割を担う一人なのだと、私は思う。

 

(奈良国立博物館アソシエイトフェロー 安藤真理子)

 

X線CTスキャン画像解析の様子

(読売新聞 2021年8月31日掲載)

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