2026.05.27 (水)
出土品研究 知見生きる 伝世品も“発掘”する楽しさ
奈良国立博物館のウェブサイトには「組織・職員紹介」というページがある。奈良博を構成する部・課・室や、研究員の専門分野・担当業務を紹介するもので、私の欄には「専門は日本の歴史考古学」とある。
考古学は、土に埋もれた人の営みの痕跡を研究対象とし、旧石器時代から現代までを射程に収める学問だ。そのうち歴史考古学は、文献資料が豊富になる飛鳥時代以降を扱う。私は30年近く歴史考古学を標榜してきたためか、旧石器〜古墳時代の遺物に向き合う時には、遠い親戚に会うようで未だに緊張する。
以前は別の機関で発掘に従事していたが、奈良博に着任してからは土と無縁の日々になった。それでも考古担当者として、所蔵品の一角を占める考古資料の管理や展示、研究に携わっている。近年は、一度も土中に埋没していない「伝世品」の調査研究にも関わるようになった。学生の頃より熱を注いできた青銅鏡研究も、社寺に伝わる鏡がその対象として増えつつある。出土品研究で培った知見をフル活用し、伝世品に新たな光を当てることが楽しくて仕方がない。
近年、飛鳥坐神社(明日香村)所蔵の近世柄鏡を奈良博と奈良文化財研究所で共同調査し、現存する国内最大の青銅鏡であることを明らかにした。その成果を受け、現在、神社で再建中の参集殿には「鏡の間」を設けて、この鏡をお祀りする予定と聞く。調査研究が文化財の未来を開くことほどうれしいことはない。
伝世品への浮気が続いて、歴史考古学者としての役割が疎かになっているかもしれない。しかし、今は多様性の時代。軸足をそこに置きつつも、様々な文化財の魅力を発掘できる「考古学者」であろうと思う。
( 奈良国立博物館広報室長 中川あや)
[読売新聞(奈良県版・朝刊) 2026年5月20日掲載]
