2021.08.03 (火)

修理を終えて公開へ 霊峰白山の仏像

 今月6日、なら仏像館で石川県白山市尾添(おぞう)区所有の阿弥陀(あみだ)如来(にょらい)像の特別公開が始まった。昨年度、当館の文化財保存修理所で公益財団法人美術院により保存修理が実施され、面目を一新した姿をお披露目している。

 

 この像は、霊峰白山の山頂へと至る参道「加賀禅定(ぜんじょう)(どう)」沿いの(ひの)新宮(しんぐう)(標高1500メートル)に安置されていたが、明治時代初頭の神仏分離政策で4キロメートルほど山を下った現在地に移された。雪深い白山の過酷な環境下で、よくぞ今日まで伝えられたとつくづく思う。

 

 2018年の秋、調査に赴いた。快慶風を顕著に示す優品で、手先や台座にまで1216年(建保4年)に造られた当初の部材を残すものの、損傷が著しかった。修理がなされるまで移動は困難と判断し、詳しい調査は他日を期すことにした。

 

 その後、白山市文化財保護課の担当者の尽力で修理が実現し、その現場に立ち会う幸運に恵まれた。そして現地の収蔵施設の環境が整うまでの間、当館で預かることになった。半年あまりと期間は限られるが、この千載一遇のチャンスをとらえて、なら仏像館で紹介することを決めた。

 

 公開するのならば、この像の翌年に造られた当館寄託の阿弥陀如来像(個人蔵)と並べて展示してみたいと思った。ふたつの阿弥陀如来像は作風がまったく異なり、同時期に活動した仏師の系統や力量の違いがうかがえて興味深いと考えたからだ。

  

 これからも時宜を得た展示を企画し、仏像の魅力をさまざまな角度から発信してゆくので引き続きご期待いただきたい。

 

(奈良国立博物館主任研究員 山口隆介)

 

保存修理により面目を一新した石川・尾添区所有の阿弥陀如来像(撮影・西川夏永)

(読売新聞 2021年7月27日掲載)

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