2021.10.05 (火)
魅力届ける メッセージ 館蔵品題箋 多言語で
先日、特別展「奈良博三昧―至高の仏教美術コレクション―」が閉幕した。館蔵品だけで仏教美術の歴史をたどるという展覧会で、これまでの奈良博のイメージとは打って変わったアメコミ風のポスターデザインは注目を集めた。しかし「外見」だけでなく、「中身」についてもさまざまな挑戦をした画期的な展覧会だったと感じている。
博物館は「もの」を展示する場所だが、ものについて語る「言葉」、題箋(説明文)も重要な役割を果たす。どこが見どころなのかといった魅力を記した、いわば来館者の方々へあてたメッセージである。
奈良博三昧展の題箋は、仏教美術になじみのなかった方にも親しんでいただけるようなわかりやすい内容を目指し、さらに通常は一部のみのところ、246件全てについて、日・英・中・韓の4か国語で作成した。また教育普及担当が、子ども向けの題箋・パネルも執筆した。こういった取り組みに対しても好評をいただけたことは、とてもうれしい。私は題箋・パネル係として原稿のとりまとめや校正を担当したが、試みの数々は担当者ひとりひとりの尽力のたまものであったと思う。
ところで、博物館に勤めて4年目の私は、題箋や図録解説の執筆にたいへん時間がかかる。そんなとき思い出すのは、大学の授業で先生が言った「美術史とは作品を言語化すること、形容詞の学問だ」という言葉である。どのような「言葉」を選び用いれば、「もの」の魅力を最大限に発信できるのか。奈良博三昧展を経て、豊かな「言葉」をもった学芸員になれるよう日々努めていきたいと気持ちを新たにしている。
(奈良国立博物館アソシエイトフェロー 萩谷みどり)
(読売新聞 2021年9月28日掲載)