2026.04.08 (水)

展覧会タイトル 翻訳に力 専門性保ち 分かりやすく

 展覧会のタイトルは、来場者が最初に目にする言葉であり、まさに展覧会の「顔」と言うべき存在である。私は日々、展覧会タイトルの翻訳に携わる立場にあるが、そのたびにタイトルの影響力の大きさを実感する。

 

 どれほど展示内容が充実していても、タイトルが難解であれば、来場者は入口の段階で距離を感じてしまう。逆に、一言で興味を引くタイトルは、知らなかった世界への扉を自然に開いてくれる。

 

 とりわけ仏教美術や歴史文化を扱う展覧会では、専門家の間で共有される用語がそのまま使われることも少なくない。しかし、直訳だけでは海外の一般来場者に意図が十分伝わらない場合がある。実際、原題は学術的で格調高いものだったが、抽象的な概念が前面に出ていたため、副題で「時代背景」や「人々の祈り」といった具体的な視点を加え、内容の焦点が一目で伝わるよう工夫したことがある。

 

 私は翻訳の際、専門性の核を損なわないよう細心の注意を払いながらも、「この言葉で本当に届くだろうか」と自問する。表現を少し言い換えるだけで、タイトルが柔らかくなり、「見てみたい」という気持ちにつながる瞬間に立ち会うこともある。

 

 もちろん、学術的厳密さは不可欠である。だがその深みは、展示室の中でこそ丁寧に伝えられるはずだ。まずは足を運んでもらうこと。そのための扉となるのが展覧会タイトルである。

 専門性と分かりやすさの間で揺れながら言葉を選ぶ作業は、単なる翻訳技術ではない。文化の橋を架ける営みの一端であると、私は感じている。

 

 

( 奈良国立博物館アソシエイトフェロー/中国語担当 張小娟)

[読売新聞(奈良県版・朝刊) 2026年4月1日掲載]

 

多言語タイトルを掲出している展覧会看板

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