2025.12.24 (水)
春日にあらわる若宮神 あどけない童子の姿
歳末の奈良を彩る恒例の春日若宮おん祭の御旅所祭が、当館と隣接する御旅所を舞台に17日開催される。御旅所祭では田楽や舞楽、猿楽など様々な芸能が神前に奉納されるが、遊びが大好きな子どもの神様である若宮神が、華麗に繰り広げられる演目を一日存分に楽しみ興じている姿が目に浮かぶ。
若宮神が童子の姿であることは、春日大社の祭神に関する記録や絵画作品によってよく知られている。しかし、神仏習合が進んだ中世には、若宮神の本来の姿が仏教のほとけである文殊菩薩と信じられていた。
若宮神を文殊菩薩の姿で表す絵画作品として、鎌倉時代に描かれたとみられる春日文殊曼荼羅(当館蔵)をここで紹介したい。獅子に乗る文殊菩薩に4人が従う一行が雲に乗って飛来する姿を描くもので、春日大社の神山である御蓋山・春日山を背景とすることから、春日の神域にあらわれた若宮神の姿と考えられる。
ここに描かれる文殊菩薩が子どもを思わせるあどけない姿なのは、あくまで文殊について説く経典の内容に従ったものだが、そこにはさらに子どもの神である若宮神が重ね合わされているのだ。
画面右下で文殊と対面する善財童子は、文殊の指南で仏道の修行の旅に出る純粋無垢な童子とされる。若宮文殊と善財童子という2人の童子が遊ぶその姿を、1月18日まで開催中の当館特別陳列「春日若宮おん祭の信仰と美術」の展示室でぜひ探してほしい。
( 奈良国立博物館企画課長 谷口耕生)
[読売新聞(奈良県版・朝刊) 2025年12月17日掲載]
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