2025.07.18 (金)

敷地内の植物 青々と 人も鹿も集う 悠久の藤

 木々や草花の緑が濃くなる時期になってきた。私は趣味で植物を育てているが、この時期の植物は成長がとても早く、見ていてとても楽しい。少し前には手のひらに収まるくらい小さいミニバラの花が咲き、その姿はとても愛らしく筆者を和ませてくれた。

 

 奈良国立博物館でも敷地内の植物たちが大きく成長し、春に出てきた若葉もだんだん青々としてきた。その中でも仏像館入口にある藤を紹介してみようと思う。

 

 この藤棚の下にはベンチがあり、来館者が休憩できるスペースとなっている。また、鹿たちもこの下で座って休み、時には器用に後ろ足で立ち藤の葉を食べることも。これから暑くなる季節、太陽の光を葉で遮りほどよい影を作ってくれるこの藤棚は、人にも鹿にも大人気のスポットである。

 

 人も鹿も集まるこの藤は、実はなかなか古い木なのはご存じだろうか。奈良博が所蔵している昭和30~40年代頃に撮影されたガラス乾板にも今と変わらない大きさの藤が写っている。「奈良国立博物館百年の歩み」にも、江戸末期頃にはほとんど建物がなく、樹木が生い茂っており、仏像館入口の藤と、庭園東側に残る杉や柏などはその頃の名残と書かれている。そうすると藤の樹齢は100年を越す。もしかしたら奈良博が誕生する以前からこの藤は存在しているかもしれない。

 

 今年、奈良博は開館130周年を迎えた。この藤は奈良博の初期から見守り、現在も奈良博を見守っている。一緒に歩んできたこの藤をこれからも大切にしていきたい。

( 奈良国立博物館学芸部文化財課資料室写真技師 西川 夏永)

藤棚と、葉を食べる鹿

[読売新聞(奈良県版・朝刊) 2025年7月2日掲載]

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