2025.02.04 (火)
写真洗浄で被災地支援 復興に欠かせない文化財
2025年1月17日で阪神淡路大震災から30年経ちました。昨年元旦に起きた能登半島地震も多くの人命と共に多くの文化財を消失し、秋には大雨災害もあったため能登の復興は道半ばです。多くの方が物資や義援金で復興に寄与されましたが、「お金や物以外で何か支援をしたい」とお考えではないでしょうか? 阪神淡路大震災は“ボランティア元年”とも言われていますが、“被災地ボランティア”と聞いて多くの方々は、「活動にはお金も時間も体力がかかる」「私には特筆できる専門的な技術もない」と想像されるかもしれません。
私自身、1995年の阪神淡路大震災発災時は高校教員をしながら文化財の保存や修理を勉強していた時期で体力も気持ちもありました。ただ、東京から神戸へ文化財レスキュー(当時、この言葉はありませんでした)に行く資金や時間を準備する知恵がなかったので、この気持ちがよくわかります。さらに昨今は参加者の氏名や連絡先、ボランティア保険加入の有無などを事前に登録する方法が一般に認知されたこともあり「当日の飛び入り参加は難しく、参加のハードルが上がった」とも言われます。
昨年、私は公私共合わせて6回にわたり約1ヶ月間を能登半島で活動しましたが、自家用車を保有しない私が個人でボランティア参加する際に最大のネックとなったのは交通滞在費でした。支援したい気持ちと時間や費用で悩みを抱えていたところ、それほどお金をかけずに寄付金以外で被災地に行かなくても出来る支援を知りました。それは、被災した写真を現地から近畿圏内に運び、洗浄などを行なって現地へお返しする活動です。
写真は時間と空間を切り取った貴重で、身近な情報量の多い資料であり、被災された方々の心へ直接訴えることもできるため地域文化の復興には欠かせない文化財です。地元にいながら災害を自分ごととして捉え、無理のない範囲で、言い方は悪いのですが「楽しんで行う」ことが出来るのです。
能登半島も現代日本における多くの中山間地域と同じで過疎化が進んでいますが、写真の洗浄などを通して能登との関係を作り、奈良で生活しながら関係人口として被災地を支えることは可能なのです。
(奈良国立博物館上席研究員 荒木臣紀)
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[読売新聞(奈良県版・朝刊) 2024年1月22日掲載]