2024.12.25 (水)
科学調査 修理サポート 「現状維持」後世に伝える
現在、奈良国立博物館では昨年度までに修理された当館の収蔵品を公開する特集展示「新たに修理された文化財」が開催されています。本展覧会に出陳される作品をはじめ、収蔵品の大半は当館敷地内にある文化財保存修理所で修理が行われます。修理所内には仏像を中心とした彫刻作品、絵画・書跡、漆工芸品を扱う三つの工房が入っており、伝統的な材料・技法に加えて、科学調査を活用した修理が行われています。
修理所の要請により、当館研究員が修理所と連携し共同で科学調査を行うことがあります。例えば、X線CT(コンピューター断層撮影技法)調査で内部の状態や構造を解析したり、蛍光X線分析では文化財に用いられた金属の種類や彩色の顔料を推定したりするなど、文化財の状態、材料を正確に把握した適切な修理を行っています。
こうして修理が行われた文化財ですが、修理の前後で大きく変化することは多くありません。その理由には「現状維持修理」という現在の基本的な考え方が挙げられます。先人たちの修理を経て現代にまで守り伝えられてきた文化財を、これ以上損傷が進まないよう今の状態を維持し、後世に伝えるという文化財修理の原則です。そのため新たに絵を描き足したり、彫刻の手などを補ったりすることはあまり行われません。
その一方で、経年の汚れや過去の修理で行われた彩色が取り除かれることで、隠れていた制作当初の色鮮やかな彩色がよみがえることもあります。
近年に修理された文化財をご覧いただき、文化財修理への関心をより一層深めていただけますと幸いです。
(奈良国立博物館研究員 加藤沙弥)
[読売新聞(奈良県版・朝刊) 2024年12月18日掲載]