2024.07.03 (水)

次世代担う生徒に講演 文化財 未来への継承

 

 博物館で文化財に関する業務に携わっていると、年に2、3回は外部から講演の依頼を受ける。テーマは仏像の歴史や奈良国立博物館の展覧会の紹介、内容はおまかせといったものまで様々だ。奈良の文化や奈良博の魅力をアピールする絶好の機会と思い、これまでできる限り引き受けてきたが、この春、東京のとある中学校からの依頼が舞い込んだ。

 

 この学校では例年、3年生が「人と文化―飛鳥・奈良・京都―」というテーマで3泊4日の修学旅行を行っており、3日目の夜、宿泊先に文化財の業界で活躍する人を招いて、現場の生の声に触れる機会を設けている。実はこの中学校は私が通った大学の付属校であり、母校の遠い後輩のために微力ながらできることがあればと快諾した。

 

 思い返してみると、中学生を相手に講演するのは初めてで、しかも60分という限られた時間でどんな話をするのがよいのか、自分は何を伝えたいのかをしばらく自問した。最終的に「学芸員のしごと 文化財を未来に伝えるために」と題して、文化財の未来への継承は所蔵者や学芸員だけの役目ではなく、いまを生きる私たち一人ひとりが担い手なのだというメッセージを送った。

 

 講演終了後、興奮冷めやらぬ様子の生徒たちが私のもとに駆け寄り、矢継ぎ早に質問する姿に接して、メッセージはたしかに伝わったと実感した。と同時に、自分自身が次世代を担う人材の育成という大切な役割を担っていることに、改めて気づかされる機会にもなった。

 

 

(奈良国立博物館学芸部主任研究員 山口隆介)

 

中学生への講演の様子

 

  

[読売新聞(奈良県版・朝刊) 2024年6月26日掲載]

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