2023.10.25 (水)

「春日移し」南山城各地に 密接な交流紹介 初の試み

 

 今夏に当館で開催した特別展「聖地南山―奈良と京都を結ぶ祈りの至宝」は、京都府最南部に位置する南山城地域の仏教文化を、隣接する奈良との密接な交流に視点を据えながら紹介する初めての試みとなった。京都府木津川市在住の南山城住民である私は、その縁もあって、企画が立ち上がった当初から本展覧会に深く関わることになった。

 

 それからというもの、以前にも増してこの南山城地域と奈良の文化的な結びつきを強く意識する機会が増えたように思う。

 

 例えば本展覧会を契機に南山城の古社寺を足しげく訪れる中で、展覧会にも出陳された牛頭天王像をまつる松尾神社(木津川市山城町椿井松尾)をはじめ、各地で「春日移し」の神社の社殿を目の当たりにしたことは、個人的にとても大きな発見だった。

 

 奈良の春日大社ではかつて、20年に1度の式年造替しきねんぞうたいで社殿を新たに建て替える際に、古い社殿を近隣の神社に移築する「春日移し」が盛んに行われたが、南山城にはこうした春日大社にあった時の姿をそのまま伝える社殿が数多く伝わっている。祭礼をはじめとして地域の文化を担っていた神社の中心に建つ春日造りの社殿は、奈良の宗教文化との濃密なつながりを象徴しているのだ。

 

 木津川市内では現在も、奈良のバスが縦横に走り、奈良のテレビ局の番組が毎日流れるなど、日々奈良の文化に触れることができる。この南山城に伝わった文化財を、これからも奈良の博物館で積極的に紹介していきたい。

 

(奈良国立博物館企画室長 谷口耕生)

春日大社社殿が移築された松尾神社社殿

 

  

[読売新聞(奈良県版・朝刊) 2023年10月18日掲載]

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