2023.10.04 (水)
再び結ばれた縁 南山城 魅力を発信
今月3日、奈良国立博物館の特別展「聖地 南山城―奈良と京都を結ぶ祈りの至宝―」が閉幕した。京都府の最南部、奈良市に隣接する南山城地域に花開いた仏教文化を紹介したこの企画は、当館の夏期特別展としては大健闘の6万人近いご来館があり、南山城の魅力を多くの皆様に体感していただくことができた。
閉幕間際、受付から一本の電話がかかってきた。はるばる東京からいらしたご夫妻が私との面会を希望しているという。事態が飲みこめないままエントランスへ向かうと、今から20年前、アルバイトで家庭教師をしていたころの教え子の両親だった。挨拶もそこそこに近況をたずねると、私が南山城展を紹介するテレビ番組をたまたま目にし、駆けつけたと笑顔で話してくださった。
家庭教師を始めたころ、教え子は多感な時期を過ごす高校1年生のサッカー少年だった。その後しばらくして会う機会はなくなったが、彼は大学卒業後に仕事で単身ベトナムに赴任し、コロナ禍の過酷な環境のなかで奮闘したこと、帰国後は都内の企業で活躍していることを知って誇らしい気持ちになった。次回は彼も一緒に東京で再会することを約束し、ふたりの後ろ姿を見送った。
南山城展の開催に際しては、作品のご所蔵者をはじめさまざまな出会いがあり、皆様のお力添えで充実した展覧会をつくることができた。と同時に、私の大学生時代を支えてくださった恩人である、このご一家との縁がふたたび結ばれた忘れられない展覧会となった。
(奈良国立博物館学芸部主任研究員 山口隆介)
[読売新聞(奈良県版・朝刊) 2023年9月27日掲載]