2023.05.31 (水)
8枚分析 金の濃度高く「日本で最初に作られた金貨」
皆さんは、日本で最初に作られた金貨をご存じですか?
その金貨の名は「開基勝寳」と言い、「続日本紀」に記載された内容から、天平宝字4年(760年)に銀銭の大平元寳、銅銭の萬年通寳とともに鋳造されたことが知られています。円形方孔で、銭銘は吉備真備の筆とされており、銅銭10を銀銭1に、銀銭10を金銭1に当てました。
現存する開基勝寳は、寛政6年(1794年)に西大寺西塔跡から出土し皇室に献上された1枚(宮内庁三の丸尚蔵館所蔵)と、昭和12年(1937年)に奈良市伏見町で宅地造成中に発見された31枚(東京国立博物館所蔵、金塊・金板・銀鋺などと共に一括で重要文化財)です。
現存するものは銭銘から三つに区分されることが知られていましたが、金属組成については調査が行われていませんでした。東京国立博物館(東博)の平成館考古展示室では8枚を常設展示していますが、昨年東博で勤務していた際にこれらを展示室内で調査しました。携帯型の元素分析装置での調査により、8枚とも同様の金属組成で、金を非常に多く含んでいることが判明しました。
博物館では展示の裏側で様々な調査が行われています。講演会や展示解説などで随時新しい知見を皆様にお届けしたいと思いますので、機会を見て博物館にお越しいただけると幸いです。
(奈良国立博物館保存修理指導室長 鳥越俊行)
[読売新聞(奈良県版・朝刊) 2023年5月24日掲載]