2023.03.22 (水)

仏像の魅力 翻訳で学ぶ 「展示品の特色 多言語で紹介」

 

 奈良国立博物館のなら仏像館では常時100件近くの仏像が展示されている。飛鳥時代から鎌倉時代までの仏像を中心に、中国や朝鮮半島のものも含まれる。それらを多言語で紹介するのが我々翻訳者の仕事であるが、恥ずかしながら私は、この仕事に携わるまで仏像に関する知識が浅かった。

 

 今度の名品展「珠玉の仏たち」で、奈良・法徳寺所蔵の如来()像の解説を翻訳することになった。平安時代(10~11世紀)の、一見普通の木造の像にしか見えないこの像は、顔が他の像より下膨れで、大きな(にっ)(けい)をもつ、肩幅の広い体つきが平安初期の仏像の特徴であることが、翻訳を通して分かった。また、目線が少し伏し目がちに下を向いていることや、大きく丸い波と小さく鋭い波を交互に表した「翻波式(ほんばしき)」の衣文も、この時期の特色であることを学んだ。

  

 仏像はそれぞれに、時代や地域、仏師などによって特徴が異なる。それ自体が私にとっては未知の世界であったが、今は、仏像はそのものだけでなく、それらを造った人々や、体に納められた願いの詰まった納入品などを通して、過去・現在・未来の人々の心が(つな)がっているのではないかと強く感じるようになった。私の翻訳で一人でも多くの外国人観覧者が、古き良き仏像の魅力を感じてくれれば、こんなに(うれ)しいことはない。

 

 今、初めて仏像の解説を翻訳した時の私を思い出すと、少し恥ずかしい気がするが、それは翻訳を通して自分が成長した証しであるとも思う。

 

(奈良国立博物館研究員 張小娟)

 

翻訳を担当した法徳寺所蔵の如来坐像

 

  

[読売新聞(奈良県版・朝刊) 2023年3月15日掲載]

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