2022.11.02 (水)

最も「著名」な館蔵品 「聖徳太子二王子像」模本

 写真に掲げたのは聖徳太子の大変有名な肖像画。この姿を見て歴史の教科書や旧1万円札の図柄を思い起こす人も少なくないだろう。しかし、本作品が当館を代表する館蔵品であると聞くと、意外に思われるに違いない。

 

 実を言うと写真の作品は、奈良時代に描かれた聖徳太子の肖像画を代表する名品である「聖徳太子二王子像」の極めて忠実な模本なのだ。長らく法隆寺に伝来した原本は、明治時代に皇室に献上されたため、現在は宮内庁の所蔵となっている。

 

 厳重な管理のもと写真使用の許可を得るのが容易ではないのか、模本である本作品に関する写真掲載の申請が出版社から毎月のように当館に届く。今では世間の目に触れる機会の最も多い館蔵品となっており、昨年の聖徳太子1400年遠忌記念特別展「聖徳太子と法隆寺」では原本とともに同じ奈良博会場での公開が実現した。

 

 この絵が完成したのは明治30年(1897年)9月のこと。2年前に開館した帝国奈良博物館(奈良国立博物館の前身)の最初期のコレクションに加わっている。絵筆をとった和田(かん)(すい)(1867~1945年)は、大阪出身のやまと絵を得意とした画家で、明治30年8月に春日大社の絵画制作を担う春日(かすが)絵所(えどころ)(あずかり)に任命されたばかりだった。

 

 この肩書を得てすぐに取り組んだ名画の模写にかける思いは強かったに違いなく、画中に記された「春日絵所預清原貫水」の署名がなんとも誇らしげに見える。

 

(奈良国立博物館教育室長 谷口耕生)

 

和田貫水筆の「聖徳太子二王子像(模本)」
(奈良国立博物館蔵)

[読売新聞(奈良県版・朝刊) 2022年10月26日掲載]

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