2022.10.19 (水)
古神宝 今も新たな発見 若宮神社の獅子・狛犬像
この冬、当館は特別展「春日大社 若宮国宝展」を開催する。春日大社の摂社である若宮神社の御造替完了を記念する展覧会で、若宮神に捧げられた神宝や御造替に関する資料が一堂に会する。御造替とは社殿を造り替え、神宝や調度品を新調することを言う。
本展で初公開される品はいくつかあるが、特に注目いただきたいのは、近年に若宮神社から撤下された獅子と狛犬の像。筋骨たくましい体つきや拝する者の方へ顔を少し向ける自然な動きの表現が見事で、鎌倉時代の制作とみられる。守護獣らしく獅子は威嚇するように吠え、狛犬はグッと口を閉じて尖った牙を見せるが、かえって元気な犬のようで愛らしい。
ところで、何だか不思議な形の台に座っていると思わないだろうか。下の平たいものは波が往来する浜をかたどった洲浜形、その上にあるのは岩を模した形で、山形とも言えようか。洲浜形だけに座る獅子・狛犬の例はあるが、洲浜形と岩形を組み合わせた台はほとんど知られない。唯一、若宮神社より前に撤下された本社本殿のうち第二殿の獅子・狛犬が同じ形状の台に座る。
実はこの形、本展に出陳される若宮御料古神宝類(国宝)のうち、木造彩色磯形残欠(平安時代)がよく似ていて、本来は獅子・狛犬いずれかの台座であったとの説が以前出された。新出の若宮神社獅子・狛犬により、その可能性はより高まったと言えるだろう。こうした台座の形式も、春日大社で受け継がれてきた伝統かもしれない。撤下された古神宝からは、今も新たな発見がある。
(奈良国立博物館研究員 内藤航)
[読売新聞(奈良県版・朝刊) 2022年10月12日掲載]