2022.07.06 (水)
本物が持つオーラを内包 実際の像から型取りしたレプリカ
来月から奈良博で開催するわくわくびじゅつギャラリー「はっけん!ほとけさまのかたち」には13世紀に作られた阿弥陀如来像(裸形)のレプリカが展示される。レプリカなどの複製品は、通常、価値が低く評価されるが、このレプリカは3D計測データをもとに制作するクローン文化財とは異なる。実際の像から型をとって作られているからだ。この制作過程を考えると、オリジナルが持っている神秘的なオーラをわずかでも有していると言えるであろう。
木や石から人間が作った制作物が、いつ、どのようにして、霊験性を持つ祈りの対象へと変わるのかについては、宗教美術・物質文化の大きな問題である。この問題への対応として、仏教では開眼供養がある。仏像や絵画の完成・修理の際に、儀式によって聖なる物として認知するのだ。だが、神聖な効能の源は他にもある。礼拝対象と物理的に触れたことも、その源の一つである。
かつて玄奘三蔵はインドで釈迦の足跡を拓本し、その図像を中国に持ってきたという。実際にもたらした人物は中国と天竺を外交使節として往来した王玄策だが、拓本は仏教信仰の対象として重んじられ、遣唐使を経由して奈良の薬師寺にも届いた。その足跡は石の面に刻まれ、仏足石として現在も薬師寺境内に安置されている。拓本のおかげで図像の伝播だけでなく、釈迦の聖なる仏足の霊験性までも奈良にもたらされたのだ。
8世紀の「綴織當麻曼荼羅」は修理のために、板から剥がされた時、曼荼羅を貼り付けていた板自体が礼拝対象になった。先のレプリカの作り方について考えたとき、曼荼羅のように、本物の仏像に直接触れて作られた複製品には、本物が持つ霊験性も乗り移っているのではないだろうか。
(奈良国立博物館学芸部研究員 メアリー・ルウィーン)
[読売新聞(奈良県版・朝刊) 2022年6月29日掲載]